狭小住宅のメリットとデメリット

狭小住宅の先駆けとして、多くの建築家の頭に浮かぶのは、東孝光さんの自邸、塔の家(1966年)かと思います。東さんは都心の便利な場所に住むことを優先し、渋谷区神宮前の6坪の敷地に地下1階地上5階、床面積20坪の塔のような家を作り、家族3人でお住まいになりました。

この先駆的な事例が示すように、都心のような自らの資金力を超えた場所に家を作るということを考えた場合、多くの人の選択肢は、土地の大きさは諦めて(6坪は極端にせよ)、土地の便利さを優先するという狭小住宅に行き着くと思います。逆に狭小住宅のメリットは何かと問われて、真っ先に出てくる答えは、自らの資金力を超えた場所で家が作れる、ということだと思います。

塔の家は、狭小住宅の作られ方としても、とても示唆深い作品です。階段や吹き抜けで全ての階は繋がっており、扉や間仕切りがないので、全ての空間が繋がっています。閉じられた個室という考えはなく、一番上の子供室に行くには、両親の寝室を通らなければいけません。

「最上階の子供室で勉強していると、キッチンでコトコトと料理をしている母の気配が伝わってくる。父のもとを訪ねてくる大人たちの話し声も聞くともなく耳に入ってくる。直接会話をしなくても、この家にいるだけで家族のコミュニケーションは成立していたのだ。」

建築家の自邸を訪ねて「第5回」築42年。人生を共にした「塔の家」より

狭小住宅のデメリットと何かと問われて、真っ先に出てくる答えは、家が狭いこととなりますが、塔の家では、床面積20坪の家全体を一体のものとすることで、それを克服しています。そしてプライバシーの欠如とも言われそうな状況を、

「そこに住む夫婦とひとり娘にとっては、ともに過ごす喜びを分かちあえる、かけがえのない場」

建築家の自邸を訪ねて「第5回」築42年。人生を共にした「塔の家」より

に転換することに成功しました。

家全体を一体のものをすることにより、狭さを克服するというのは、今でも同様なことが行われている、狭小住宅のセオリーのようなものです。しかし、プライバシーの欠如を「かけがえのない場」に転換させたのは、東さんの設計力と、住む側の決意です。
狭小住宅のデメリットの克服には、建築家の確かな設計力と建て主側の住む力が、大切であることも教えてくれた作品が、塔の家だと私は思っています。


スモールハウス登録建築家
角倉剛/(有)角倉剛建築設計事務所